遺言の種類と特徴
遺言の形式
民法が定める遺言の方式にはおおきく分けて普通形式と特別形式の2種類があります。
特別形式(危急時遺言,隔絶地遺言)は,死が差し迫り,普通形式に従った遺言をする余裕のない場合に用いられる方式です。普段の生活では,あまり考える必要のない遺言と思われます。
そこで,ここでは,普通形式(自筆証書遺言,公正証書遺言,秘密証書遺言)についてお話をしたいと思います。
遺言の注意点
遺言書を作成する際にもっとも注意すべき点は,遺言には厳格な要式が定められており,その要式に違反すると遺言として認められないことがあるということです。
遺言書を作成する際には,弁護士に相談することをお勧めします。
遺言でできること
法律が定める法的効力を生ずる遺言事項(法定遺言事項)は以下の通りです。
法律で定められた事項以外の事項を書いたとしても,法的な手段を用いて実現することはできません。
しかし,遺言者からの最後のメッセージとして重く受け取られ,重要な役割を果たすことも少なくありません。
1 相続に関する事項
- 推定相続人の廃除,排除の取消し(民法893条,894条2項)
- 祖先の祭祀主催者の指定(民法897条1項参照)
- 相続分の指定,指定の第三者への委託(民法902条1項)
- 特別受益(遺贈・生前贈与)の持戻しの免除(民法903条3項)
- 遺産分割方法の指定,指定の第三者への委託,遺産分割の禁止(民法908条)
- 各共同相続人間の担保責任に関する別段の意思表示(民法914条)
- 遺贈の減殺に関する別段の意思表示(民法1034条ただし書)
2 財産処分に関する事項
- 遺贈に関する事項(民法964条)
- 相続財産に属しない権利の遺贈における遺贈義務者の価額弁済に関する別段の意思表示(民法997条2項ただし書)
- 一般財団法人設立の意思表示(定款記載・記録事項の定め)(一般社団・財団法人法152条2項)
- 信託の設定(信託行為),受益者指定権等の行使(信託法2条2項2号,3条2号,89条2項)
- 生命保険金の受取人の変更(保険法44条)
3 身分関係に関する事項
- 認知(民法781条2項)
- 未成年後見人の指定,未成年後見監督人の指定(民法839条,848条)
4 遺言の執行に関する事項
- 遺言執行者の指定,指定の第三者への委託(民法1006条1項)
遺言の種類
自筆証書遺言
自筆証書遺言は,最も簡単に作成できる遺言です。
遺言者がその全文,日付及び氏名を自署し,これに印を押すことで作成することができます(民法968条1項)。
自分一人で作成することができるため,遺言の存在自体を秘密にできるのが長所ですが,紛失・偽造・変造の危険があります。
また,文意が不明などの理由で効力が問題となることもあります。
また,遺言を執行する際には,家庭裁判所にて「検認」という手続きを経なければなりません。
公正証書遺言
公正証書遺言は,公正証書で作成される遺言です。
この遺言をする際には,証人2人以上の立会いのもと,公証人に作成してもらう必要があります。
公証人の面前で作成するものなので,変造の心配はなく,なくしてしまうおそれもありません(公証人が原本を保管しています)。
家庭裁判所の検認も不要です。
しかし,手続が大変という点や証人や公証人に内容が知られてしまうという点に短所があります。
秘密証書遺言
秘密証書遺言は,公証人や証人の前に封印した遺言書を提出して存在を明らかにしておきながら,内容を秘密にして遺言書を保管することができる方式の遺言です。
公正証書遺言の場合と同様,公証人及び証人2名が必要となります。
実際には,自筆証書遺言か公正証書遺言を利用する方がほとんどであり,ほとんど利用者がいないようです(全国で年間100件程度)。
4 各遺言のまとめ
以下,各遺言の要式やメリット・デメリットについてまとめました。
種類 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 秘密証書遺言 |
作成方法 | 遺言者が,遺言の全文・ 日付・氏名を自署し,印を押す。 |
遺言者と証人2名が公証役場へ行き,作成。 | 遺言者が遺言書を作成し,証人2名と共に公証役場へ行き,作成。 |
証人 | 不要 | 必要 | 必要 |
検認 | 必要 | 不要 | 必要 |
メリット |
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デメリット |
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